うつ病からの回復体験談(後編)

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うつ病からの回復体験談(後編)

うつ病からの回復体験談(後編)

SPECIAL ARTICLE

著者

著者・矢野雅彦

矢野雅彦

プログラマー、工場勤務などをしながら翻訳の民間資格を取得。副業翻訳者。学生時代に発症したうつ病の後遺症に苦しみ、旅することと書くことで立ち直ってきた。主に建築、庭園、美術館をめぐっている。

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はじめに

本特集は、「うつ病からの回復体験談(前編)」の続きです。
前編では筆者がうつ病を発症してから、いったん症状がよくなるまでをお伝えしました。後編ではうつ病が再発、長期化した時期のことをご紹介します。

うつ病が再発したり長期化したりすることは少なくありません。また、社会復帰できる程度には回復しても、喜びや幸福感がなかなか回復しないこともあります。筆者もそうでした。
その時に筆者は何をして、どのような心境の変化があったのか。本記事を通して、筆者の体験が皆さんの力と参考になれば幸いです。

うつ病に罹患すると回復をイメージするのが難しいものですが、希望を失わず、よくなるイメージを持つためにも、ぜひご一読ください。

うつ病の再発と長期化

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まずはうつ病を再発した当時の状況からお伝えします。

うつ病再発の経緯

何とか社会復帰できるまでにうつ病を回復した筆者ですが、「おっくうな感じがする」「人間関係の中に入っていけない」など、今ひとつすっきりしない状況が続いていました。

大学卒業後は実家に戻って就職活動をしましたが、自分に何ができて何が目標かもわからず、塾講師やプログラマーなどいくつかの職種を転々。社交的にならなければというプレッシャーを自分にかけていましたが、実際には普通の声掛けや雑談をするにも苦労するありさまでした。

筆者がうつ病を再発したのはこのような状況です。

うつ病再発当時の状況

再発後のうつ病の症状は以前よりは軽く、朝起きたり外出したりすることはできました。とはいえ、疲れやすくて意欲も長続きせず、集中力、判断力は低下している状態です。仕事をしていて、生徒や同僚と普通に話すこともできません。

その結果、仕事ができず落ち込むことが多くなりました。自分には価値が無い、周囲に迷惑をかけているという考えが頭から離れません。
漠然と死を考えるようになり、通勤途中も「対向車線を走っているあのトラックがはみ出してくれば…」などと考えることがありました。

こうした状況のなかで筆者は通院を再開。ちなみに、その時は仕事を続けながらの治療で、車も運転するため、眠くなりにくい抗うつ薬が処方されました。
その薬のおかげでうつ病の症状が回復し、薬をやめる指示が出たこともありましたが、後に再び症状が悪化。指示どおり服薬を続けても憂うつな感じが消えず、薬だけでどうにかなるものではないだろうと、思うようになりました。

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うつ病から本格的に回復するまで

以上のように、薬物療法だけでは十分でないと感じ、その後、筆者はさまざまなアクションを試してみました。なお、それらのアクションは必ずしもうつ病を意識したものではありません。ただ、少しでも生きづらさが減り、楽しみを感じられればと思って試したことです。
このチャプターではうつ病からの回復期間に筆者が行ったアクションや、心境の変化について解説します。

筆者が行った具体的なアクション

①よく眠る

まず早くから筆者が心がけていたのは、よく眠ること。これは、学生時代のうつ病の経験から、特に気にかけていたことです。
部屋の環境を整えたり、寝る前にストレッチや深呼吸をしたりと、眠りに良いと言われることをいろいろと試してみました
ただ、心の調子が悪くて眠れないときもあれば、カフェインの摂りすぎなど睡眠の邪魔になることをして眠れなくなるときもありました。

②血行を良くする

うつ病の再発から数年が経ったころ、首のストレッチをすると気分がよくなった経験があり、それ以降、血行を意識するようになりました。 ちなみにその経験というのは、当時通っていた話し方教室で、話しているうちに嫌なことを次々と思い出し、愚痴と泣き言が止まらなくなった時のことです。

その時、教室の先生が筆者の話を止めて、筆者に首のストレッチをさせました。10分くらいストレッチをすると、それまで血行が悪かったところに血が流れ始め、耳たぶがむずがゆくなってきます。そして、そのころにはすっかり気分が落ち着き、悪い状況にも現実的に対処できるような気持ちになっていたのです。

血行を良くするなど、体からアプローチすることで気持ちを切り替えられると気づいたのは筆者にとって大きな発見で、その後も役に立っています。

③前向きな自己暗示をかける

うつ病の時にはネガティブな考えが浮かびがちです。そのネガティブな思考に溺れないように、筆者は前向きな自己暗示をかけていました。
例えば、寝る前にその日の良かったことや、その日にできたことを思い出す、などです
その際のポイントは「小さな成功を大切にする」こと。「朝、時間どおりに起きられた」といった、ささいなことでもできたこととしてカウントしました。

④声を出す、歌う

大きな声を出したり、歌ったりすると気持ちがすっきりします。筆者はカラオケや朗読などで声を出すように心がけていました。
なお、カラオケで歌うのは、「365日の紙飛行機」など、爽やかな歌が中心。前向きな自己暗示も期待してのことです。うまく歌うことよりも、のびのびと歌うことを意識し、余分な力を抜くなど身体感覚にも注意しました。

⑤対人関係を練習する

対人関係を良くするために、前述の話し方教室に通い始めました。
そこでは、朗読や小芝居を通じて自分を解放するワークがあったほか、雑談でも気持ちを素直に出す練習も行います。「何が好きか」「どのような時に楽しいか」といった質問をされることもあり、自分を見つめなおすきっかけにもなりました。

⑥気が向いたことを勉強する

うつ病の症状が徐々に回復し、できることが増えてからですが、余力がある時に、気が向いたことを勉強し始めました。筆者の場合は、翻訳や美術、庭園、哲学、文章術などの勉強です。
人に言われたからでも義務感からでもなく、ただ面白そうなことに手を出して、進歩や発見があれば喜ぶという形で勉強しました
その一方で、仕事の役に立つと思って始めた簿記や社会保険労務士の勉強は、進歩がないままやめてしまいました。

よくなるきっかけは、自信

以上のように様々なアクションを試してみましたが、すぐに効果が得られたわけではありません。
筆者がうつ病から回復した過程を振り返ると、一定のペースで回復するというよりは、ところどころで症状がよくなったと思うタイミングがあった感じです

例えば2010年頃、前述の話し方教室で朗読をほめられた時や、2013年から働き始めた工場で大過なく仕事を続けられた時期がそうでした。また、こうしたタイミングで意欲や積極性も段階的に増し、余力がある時に旅行へ行ったり、勉強したりするようになりました。
勉強はとぎれとぎれで、1年くらい何もしなかった時期もあります。ですが2017年に受けてみたTOEICで、自己最高スコアを取得したことをきっかけに意欲が再燃。
2017年には翻訳の民間資格に合格し、2019年には副業翻訳者として初めての仕事がありました。

こうした出来事を通じて自信が回復すると、憂うつな感じが減り、喜びが戻ってきたのです。意欲や関心も長続きするようになり、頭もすっきりした感じになりました。

うつ病から回復してどうなったか

ここからは、うつ病の回復と並行して生じた、気分がよくなる以外の変化についてご紹介します。

1つ目は自分について語れるようになったこと
かつての筆者は自分の価値観、強み、目標などを語ることができませんでした。その理由は「自信がないから」「言ったらとがめられるから」「自分でもわかっていないから」などさまざまです。
ですが、うつ病の回復と並行して、自分のことを言葉にできるようになりました。

2つ目は他人との関係が中庸になったこと。
筆者はもともと他人との関係で過剰に遠慮したり他人に合わせたりする方でしたが、気乗りしない誘いや余計なおせっかいを断れるようになりました
とはいえ人間嫌いというわけでもなく、会社では控えめながらも日常会話はしますし、プライベートでも趣味の会に入っています。

筆者のうつ病が長引いた背景には、うつになりやすい考え方や、無理をした生き方があり、それらを改めることでうつから抜け出すことができたのだと思っています

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うつ病の再発防止策

うつ病の症状が治まってからは、再発防止に気を付けながら普通の生活を続けることが大切です。本チャプターでは、うつ病の再発防止のために筆者が心掛けている考え方や、再発防止策を解説します。

うつ病再発防止のための考え方

①自分を大切にする

うつ病から回復した状態について、皆さんはどのようなイメージをお持ちでしょうか。屈託がなく元気で、友達と遊び歩いているような状態だと思っていますか。
実際のところ、うつ病回復後の筆者は、ひとりの時間を大切にして、飲み会などの誘いは断ることが増えました

うつ病の罹患と回復の過程で筆者が感じたのは、「他人が考えた理想にしたがって生きるのは疲れる、そして、そうした生き方はうつ病に関しては危険因子でしかない」ということです
今思えば、塾講師をしていた時期や、社交的にならなければというプレッシャーを自分にかけ続けていた時期が一番精神的に危うかったと思います。そのため、その後紆余曲折を経て工場で働き始めたときには、精神的に楽になりました。

また、変えがたい部分については無理に変えようとするのではなく受け入れて、「私は私」と開き直ることも大切です

②感情とは別の自分を持つ

悪いことが起こった際、人は感情的に反応しがちです。自分を責めたり、他人を責めたり、落ち込んだり・・・。それは筆者もそうですし、「状況が悪ければ悲観的になるのは当然」とかつては思っていました。

ですがうつ病を経験して思うのは、「感情とは別の自分が大切だ」ということです。
状況が悪いときには、「このような方向で解決したい」という意志や目標を確認し、「そのためにはこうする」という現実的な対処に集中するよう心がけています

筆者が実践しているうつ病の再発防止策

①体を通じて気持ちを切り替える

ネガティブな気持ちが生じた時は、気持ちを切り替えることが大切です。その際に助けとなるのが体からのアプローチ。筆者が行っているのは「深くゆっくりと呼吸する」「血行をよくする」「筋肉の力を抜く」ことです。

②ストレスを解消する

ストレスにうまく対処することも、うつ病の再発防止のためには大切です
友達と遊んだりしゃべったりしてストレスを解消する人もいますが、筆者は一人の時間に心が回復するタイプ。
そのため、一人旅をしたり、ぼーっとしたり、カラオケで思いっきり声を出したりしてストレスを解消しています。

③向上心を持って行動する

無理をするのはよくない一方で、手が届く範囲で何かに挑戦することは心の健康に役立ちます。筆者は通信講座や書籍を通じて勉強をしていますが、課題を設定してクリアすることや、疑問が解決することが心の回復につながっています。

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コラム:
うつ病とバウンダリー・コントロール

バウンダリーとは自分と他人との境界のこと。その境界を守る、守らせることを「バウンダリー・コントロール」と呼びます。

実は自他の境界を守らないことで、さまざまな不都合が生じます
筆者の例で言えば、他人にお節介を許していたことや、他人の考えた理想的人物像に縛られていたことが、境界を守れていない原因でした。
また、筆者の家族が「一緒に苦しむのが愛」だと考えて冷静さや余裕を失っていたのも、境界が守れていなかった原因の一つです。

自分と他人との境界線をうまく引き、どこかで「ここから先は他人の事」と割り切りましょう
人は他人の幸せに責任を感じなくてよいし、他人がするべき仕事をしなくてもよいのです。また、他人の価値観に従わなくてもよいし、他人が苦しんでいる時、自分のことのように苦しまなくても構いません。

自分と他人の間に境界線をうまく引けると、心が楽になります。心が苦しいと感じるときは、ぜひバウンダリー・コントロールを意識してみてください。

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まとめ

本特集を読まれた方のなかには、うつ病の症状が重く、休養中の方もいるでしょう。また、復職等はできても、幸福感や自己肯定感が低い方もいると思います。

前編でお伝えしたように、うつ病の症状が重い時期には、薬物療法と休養が重要です。
さらに、ある程度症状が回復しても、再発を防止しつつ喜びや幸福感を回復するまでには、長い戦いになることもあります。

ですが、希望を持ちましょう。絶望は疲れた脳が見せている幻に過ぎません。 筆者の経験上、よく眠ったり、首のストレッチをするだけで、状況は何も変わっていなくても、絶望やみじめな気持ちは改善されるものです。筆者はそうした方法で苦しみをやわらげつつ、休養したり、目の前のやるべきことを進めたりしてきました。

また、うつ病を、治るか治らないかという二者択一で考えるのではなく、今より生きづらさが緩和されたり、気持ちの余裕が少し増えたりしているかという点で見ていくと、状況が良くなっていくことに現実味が感じられるでしょう

ぜひ、「うつ病は回復する」という意志と、状況・状態がよくなるイメージを持ちましょう。そのために本特集が少しでも役立てば幸いです。

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