近代文学入門 ―初心者でも読みやすい!おすすめの作品5選
SPECIAL ARTICLE
はじめに
近代文学には、「つかみどころがなく、難しい」という印象がありませんか?読んではみたものの良さがわからず、途中で読むのをやめてしまった経験のある方も多いはず。
確かに近代文学は現代文学と比べて、単語や表現が難しい傾向があります。筆者自身も以前は、「近代文学は何が面白いのかわからない」と感じていました。気が乗らないまま、無理に読んでいたことも…。
ですが、そんな筆者でも「読みやすい」「面白い」と思えた作品があります。
そこで本特集では、初心者向けに「近代文学入門」と題し、おすすめの近代文学を5つご紹介します。あわせて近代文学の特徴や、選ぶときのポイントも解説。近代文学のなかには10分以内で読める作品もあるので、気軽に読書の世界を広げてみましょう。
近代文学とは
近代文学とは一般的に、日本においては明治維新後~昭和戦前期に書かれた詩や小説を指します。
歴史的な背景としては、明治維新により西洋の影響を大きく受け、文学が発展していったことが挙げられます。また、話し言葉に近い文体で書くことを奨励する「言文一致運動」の広まりも、近代文学の成立につながっていきました。
近代文学の特徴として、主人公が内面と向き合い、苦悩する作品が多い点があげられます。作品によっては物語の起伏より、人物の感情の動きが中心となることも。ただ、その情景描写に高い芸術性のある作品が多いです。
こうした点が、現在でも近代文学が読み継がれる理由の一つといえるでしょう。
初心者でも読みやすい近代文学作品の選び方
初心者が近代文学作品を選ぶにあたり、押さえておきたいポイントがいくつかあります。初心者の場合、まずは、以下のポイントを押さえた作品から試してみるのがおすすめです。
選び方①:短編に挑戦しよう
初心者の場合、「近代文学」というだけで構えてしまうかもしれませんが、実は10分以内で読める作品も多いです。短編であれば、初心者でも比較的気軽に近代文学に挑戦できるのではないでしょうか。
インターネットで「近代文学 短編」などで検索してみると、実に多くの作品があることがわかります。有名な文豪のなかには、ほぼ短編のみを書いていた作家も多いです。なお、本特集で紹介する作品の著者(芥川龍之介や森鴎外、中島敦など)も、主に短編を発表していました。
初心者の方はまずは短編で、近代文学を味わうところから始めてみましょう。
選び方②:教科書に載っている作品を読み直してみよう
近代文学のなかには、国語の教科書に載っていたことで、何となく内容を覚えている作品もあるでしょう。あまりなじみのない文体でも、大まかなあらすじを知っていれば読みやすくなります。
また、教科書に載っている近代文学は、中高生にも理解できる作品が多いです。そのため、近代文学の初心者でも挑戦しやすいでしょう。
近代文学のなかにはタイトルを聞くだけで、ストーリーを思い出せる作品もあるはず。記憶に残っている作品から読み直してみるのもおすすめです。
選び方③:有名タイトルを選ぼう
初心者が近代文学を読むにあたり、まずは誰もがタイトルを聞いたことがあるような、有名な作品にチャレンジするのをおすすめします。なぜなら、有名ということは、それだけ多くの人の心に響いた作品だからです。
また、書き出しがよく知られている作品は、その一文に触れるだけでも、近代文学を味わった気分になれます。長編に挑戦する場合は特に、有名なタイトルを選ぶとよいでしょう。読み終えると、「あの有名な長編を読破した」という達成感がえられるはずです。経験を重ねるうちに、自然と近代文学を楽しめるようになるでしょう。
初心者でも読みやすいおすすめの近代文学5選
上記でご紹介した3つのポイントをふまえ、ここでは初心者でも読みやすい近代文学作品を5つご紹介します。
『蜘蛛の糸』『高瀬舟』『山月記』は教科書に載っている作品かつ短編のため、読みやすいといえます。『伊豆の踊子』は先ほどの3つの作品よりやや長いですが、同じく短編。文章が易しく、初心者におすすめの作品です。
対して、最後にご紹介する『破戒』は長編かつ文体が硬いため、一見すると読みにくいかもしれません。ただ、現代の小説にも通じる起伏のある展開は、近代文学であることを忘れさせるほどです。もちろん、情景描写の美しさなど、近代文学のエッセンスは十二分に味わえます。読んで後悔しない作品といえるでしょう。
初心者におすすめの近代文学 その1
蜘蛛の糸
『蜘蛛の糸』は教科書に掲載されることが多い、言わずと知れた近代文学作品。わずか10分以内で読める作品ながら、スケールが大きく、人間の浅ましさ・業の深さが存分に描かれています。
著者は芥川龍之介。『蜘蛛の糸』と同じく、教科書によく掲載される『羅生門』の著者としても知られています。これらの作品の他にも、芥川龍之介は短編小説や児童向けの作品を数多く発表しました。近代文学の初心者でも、挑戦しやすい作家の一人です。
『蜘蛛の糸』は、犍陀多(カンダタ)という罪人が蜘蛛を助けたことで、お釈迦様が救いの手を差し伸べるところから始まります。童話のような語り口でありながら、地獄の激しさと極楽の静けさとの対比が、淡々と描かれているのが魅力。極楽の描写から始まり、極楽の描写で終わる構成も巧みです。
児童文学であるため、近代文学のなかでも非常に読みやすい作品の一つ。易しい文章ながら、幻想的で美しい描写が見事。世界の真理すら感じさせる名作といえるでしょう。
著者名 | 芥川龍之介 |
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出版社 | 新潮社 |
ジャンル | 児童文学,短編小説 |
おすすめポイント |
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初心者におすすめの近代文学 その2
高瀬舟
タイトルにある「高瀬舟」とは、島流しになった京都の罪人を大阪まで護送する小舟のこと。本作では江戸を舞台に、罪人・喜助と護送役・庄兵衛のひとときの交流が描かれています。教科書によく掲載されるため、読んだことがある人も多いでしょう。
著者は森鴎外。『高瀬舟』と同じく教科書に掲載されることが多い、『舞姫』などの著作があります。ドイツ留学などの経験を持ち、西洋文学から多大な影響を受けた作家です。文豪として知られている一方、医者も生業にしていました。
本作のテーマの一つに「安楽死」がありますが、そのテーマ選びには、著者が医者であったことも関係しているかもしれません。
罪人の喜助は弟殺しという重い罪を負っていますが、その謙虚さには読者も心を打たれるはず。一読すると、「罪とは何か」を考えさせられます。これは現代にも通じる普遍の問い。近代文学の初心者にも響く内容です。
なお、問いに対する明確な答えは作中では提示されないため、腑に落ちないと感じる人もいるでしょう。ですが、「罪とは何か」を考えさせることこそが、著者のねらいであり、本作のポイントです。
著者名 | 森鴎外 |
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出版社 | 岩波書店 |
ジャンル | 短編小説 |
おすすめポイント |
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初心者におすすめの近代文学 その3
山月記
教科書によく掲載される近代文学として、『山月記』の存在も忘れてはならないでしょう。本作は、虎になってしまった主人公が、友人と束の間の邂逅をする物語です。
著者は『光と風と夢』などの著作がある中島敦。漢文に通じているため、中国を舞台とした作品が多いものの、エジプトやアッシリアなどが舞台の作品も。日本の近代文学にはそうした作品は珍しく、稀有な作家といえます。
本作においても、唐代の中国が舞台。詩人として大成できなかった主人公・李徴が、発狂の末、虎になるというストーリーは、読者に強烈な印象を与えます。漢文調の語り口にもかかわらず読みやすいと感じさせるのは、主人公の切ない心情に共感できる部分があるからでしょう。感情移入のしやすさは、読みやすさにも繋がります。
なお、一見ハードルが高い漢文調ですが、この格調高い文体は、李徴のプライドの高さと響き合っているからこそのもの。独特のリズムが心地よく、何度も読みたくなる作品になるはずです。
著者名 | 中島敦 |
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出版社 | 新潮社 |
ジャンル | 短編小説 |
おすすめポイント |
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初心者におすすめの近代文学 その4
伊豆の踊子
近代文学には、「テーマが重く、主人公が苦悩する」という暗いイメージがありませんか?『伊豆の踊子』の主人公も悩める青年ですが、メインで描かれているのは、踊り子との出会いによって癒されていく過程。そのため本作は、近代文学としては珍しく、切なくも穏やかな雰囲気を持っています。
著者は川端康成。日本人初のノーベル文学賞を受賞するなど、近代文学を代表する作家の一人です。他の著作は、冒頭が有名な『雪国』など。繊細で美しい文章が川端文学の持ち味です。
本作においても、情景描写の美しさが大きな特徴となっています。文章には音読したくなるようなリズムがあり、言葉の響きを楽しめるでしょう。また、比較的易しい文章かつ短編であることから、近代文学になじみがない人にもおすすめです。その情景の美しさに、心を打つ場面が一つはあるはず。
特にラストシーンの美しさは一級品。主人公の純粋な涙が、きっと読者の心を洗い流してくれるでしょう。
著者名 | 川端康成 |
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出版社 | KADOKAWA |
ジャンル | 短編小説 |
おすすめポイント |
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初心者におすすめの近代文学 その5
破戒
部落差別について考えたことはあるでしょうか。おそらく、多くの人は自身と関係がなく、過去の問題だと捉えているでしょう。『破戒』は、今なお続く部落差別について考えさせられる名作です。
著者は『夜明け前』などの著作でも知られる、島崎藤村。日本における自然主義文学の旗手として位置づけられています。リアリティのある心情描写が特徴で、近代文学の初心者でも挑戦しやすい作家の一人です。
本作の主人公は、被差別部落出身の青年。本作では、「出身地を隠し通す」―その戒めを守り続けることへの、苦悩や葛藤が描かれています。文体は硬質な印象ですが、それにもかかわらず読みにくさを感じさせないのは、主人公の葛藤に終始せず、起承転結が明確だからでしょう。「次の展開が気になる」という、現代の小説に近い感覚で読み進められるはずです。
また、重いテーマでありながら、さわやかな読後感がえられるのもポイント。長編小説で一見ハードルが高いかもしれませんが、初心者の近代文学入門としておすすめの一冊です。
著者名 | 島崎藤村 |
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出版社 | 新潮社 |
ジャンル | 長編小説 |
おすすめポイント |
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まとめ
近代文学のなかには、初心者でも読みやすい作品が数多くあります。
初心者のなかには、「近代文学を読んだことはあるけど、ピンと来なかった」という人もいるかもしれません。ただ、まずは文章の美しさや雰囲気を楽しむだけでも十分です。
執筆当時の著者の状況や時代背景を調べると、違った視点が得られることもあるため、近代文学を読む際は、作品が書かれた背景に目を向けてみるのもよいでしょう。
名作の近代文学であれば、多くの図書館で用意されています。また、電子書籍化している作品も多いため、気軽に読めます。
近代文学に挑戦したい初心者の方は、本特集を参考に、最初の1ページを開いてみましょう。