法人登記が終わると、仕事をする場所、資金、商品、人材、技術を、法人という個人とは全くことなる格で取得し、所有することができるようになります。
さらに、法人格を得ることで、税制上の優遇や補助金・助成金の取得等、個人には与えられていない様々な権利が国によって認められています。
この法人格を使いこなす上で実務上必ず必要になるのが、お金のやり取りの基点となる銀行口座の開設です。法人登記は終わったが、法人口座がない企業はまず存在しません。登記と法人口座開設は必ずワンセットで考えるべきでしょう。
ちなみに法人口座を開設する際は、事業効率をアップする上でも複数開設が基本です。振り込み件数が多い企業であれば、振込手数料が安いネット銀行が、銀行からの融資を受け、事業運営を行っていきたい方は、信用金庫や地方銀行。外国との取引をする場合や、補助金や助成金を利用したい場合はメガバンクの口座があると便利です。
以下に各銀行タイプの特徴と、それぞれ代表的な銀行の口座管理料、ネットバンキング利用料、振込手数料をまとめました。
こうしてまとめてみると、一口に法人口座と言っても、銀行タイプによって大きな違いがある事が一目瞭然です。
ネット銀行
口座管理手数料 | 無料 |
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ネットバンキング利用料 | 無料
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振込手数料 |
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メガバンク
口座管理手数料 | 無料 |
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ネットバンキング利用料 | 無料~55,000円(税込)
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振込手数料 |
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信託銀行
口座管理手数料 | 無料 |
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ネットバンキング利用料 | 無料~55,000円(税込)
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振込手数料 |
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信用金庫
口座管理手数料 | 無料 |
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ネットバンキング利用料 | 1,100円~3,300円(税込) |
振込手数料 |
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地方銀行
口座管理手数料 | 無料 |
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ネットバンキング利用料 | 無料~5,500円(税込)
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振込手数料 |
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TOPICS
法人口座開設を希望する際は、各金融機関が指定する書類を用意し、提出する必要があります。銀行によっては書類提出後の面談が口座開設の必須条件になっているケースも。金融機関の中でもメガバンクは、他の金融機関と比較すると口座開設の審査が厳しいため、しっかり準備を行った上で、口座開設手続きに臨みましょう。
以下はGMOあおぞらネット銀行、三井住友銀行の口座開設に必要な書類と審査にかかる日数の目安をまとめたものです。
必要書類 |
事業内容・事業活動実態が確認できる以下の書類(それぞれ1点以上)
取引責任者の本人確認書類
代表者と取引責任者が異なる場合、以下書類を提出
登記住所に建物名・部屋番号等の情報がなく、郵便が届かない場合、以下の書類を提出
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口座開設にかかる日数の目安 | 最短当日
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必要書類 |
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口座開設にかかる日数の目安 | 申込から開設まで2週間程度 |
経営者であれば法人口座が複数必要になることは、理解できるはず。
ただ時間と手間をかけて口座開設する以上、それぞれの口座を具体的にどう使いこなせば良いのかまで、知っておきたいものです。
本チャプターでは、法人口座を開設する4つのメリットを、具体的に例を挙げて解説します。
振込手数料を節約できる
1件1件はわずかでも、積み重なると決して無視できないコストが振込手数料です。振込手数料が安い法人口座を開設しておけば、この費用を大幅に節約できます。メガバンクとネット銀行を比較すると、年間数万円から数十万円の差が出るケースも。この差が5年、10年と積み重なっていく事を考えると、経営者として決して無視できない大きなメリットになります。
口座を用途別に使い分ける事ができる
法人口座が複数あると、給与・社外振込用口座、助成金・補助金申請用口座、健康組合用口座、特定取引先用口座、融資用口座というように、口座を用途別に使い分けることができます。口座毎のお金の出し入れが明確になると、会社の経営状況を把握しやすくなります。これは法人口座を複数開設しなければできません。
融資を受ける際に役に立つ
これから起業する方の多くが、使い勝手の良いネット銀行か信頼度の高いメガバンクの法人口座をメインとして利用するはず。ただ創業時に融資を受けるとなると、ネット銀行は融資機能を提供していないケースが多く、メガバンクは融資のハードルが非常に高いため、向いているとは言えません。創業時に融資を受けたいのであれば、地方銀行や信用金庫等、融資に対応してくれる法人口座を上手く活用しましょう。
資金を分散することで、資産を保護する事ができる
1つの銀行にだけ資金を置いておくのは資産保護の観点からもおすすめできません。ペイオフは法人口座にも適用されるため、1つの銀行で保護される資金は最大1,000万円(※当座預金や金利のつかない普通預金に関しては全額保護)です。リスクヘッジは会社経営者の責務です。万一の際に備えるという意味でも複数の法人口座に資金を分散することには大きな意味があります。
法人口座の複数開設は、いくつかデメリットも存在します。本チャプターではデメリットと具体的な対処法を解説します。
一部の銀行ではネットバンキングの利用料がかかる
対処法メガバンクや信託銀行等、一部銀行はネットバンキングを利用する際、月額手数料がかかります。法人口座を開設する際は、口座維持管理手数料、ネットバンキングの月額利用料、振込手数料の3点を必ずチェックしましょう。この費用を最小化することが法人口座選びのポイントの1つです。
口座管理・資金移動に手間がかかる
対処法法人口座が増えてくると、どういう用途で使い分けるのか等、口座管理の手間がかかります。また資金が分散するため、資金移動に手間がかかるのもデメリットの1つです。対処法としては大きな資金を資金移動しやすいネット銀行に置いておくという方法があります。ネット銀行を軸に据え、資金の出し入れをすると、口座管理の効率がアップします。
では実際に先輩経営者は、複数の法人口座をどのように使い分けているのでしょうか?この記事を執筆している筆者は、実は17年以上、Web関連企業を運営している現役の経営者です。弊社は経営の効率化を徹底追及しており、設立初年度以外は黒字を継続。3年目から今の至るまで、無借金経営を続けてきました。
この経営を継続するため、法人口座選びにもこだわっており、必要に応じてメイン口座やサブ口座も定期的に見直しています。
本チャプターではこれから起業する方のために、先輩経営者としての経験を踏まえ、おすすめできる法人口座の組合せをご提案します。
先輩経営者がおすすめする法人口座の組合せ
弊社はネット銀行3行、メガバンク、信託銀行、ゆうちょ銀行、信用金庫、地銀と全部で8行を使い分けています。会社経営が長くなると、金融機関との付き合いもあり、何だかんだで口座が増えていきますが、実際に頻繁に使っているのは半分の4行に過ぎません。これから法人口座を開設する方であれば、当初は3行あれば十分でしょう。
起業当初はメインにネット銀行、各種助成金や補助金の受取口座としてもメガバンク、融資を利用する場合はフットワークの軽い信金(地銀)の組合せがおすすめ。メインで使うネット銀行は、社員にも口座を開設してもらい、給与振込先として使うと無駄な経費を節約できます。一部のネット銀行は同行宛ての振込手数料を無料にしているので、振込にかかるコストがかかりません。優れた経営者はたとえ儲かっていても、無駄な経費は1円たりとも払わないものです。これから起業される方は、是非憶えておいてください。以下は現時点(2021年10月)で私がベストだと思う法人口座の組合せです。
メイン口座 |
私の知る限り、現時点でもっとも振込手数料が安い。また同行間の振込手数料は無料なので、社員の給与振込にかかる手数料がゼロ。他行向けの振込手数料も安いので、外部振込にかかる手数料を最小化できるはずです。また法人向けデビットカードを発行手数料、年会費無料、審査なしで発行でき、利用金額の1%がキャッシュバックされます。このサービスも他の法人口座にはない大きな魅力です。 |
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サブ口座 |
これはあくまで私の肌感覚ですが、ベンチャー企業への口座開設と言う点では、メガバンクの中で三井住友銀行の融通が1番効く気がします。三井住友銀行にはパソコンバンク21というネットバンキングのサービスがありますが、ライトプランであれば、初期費用・月額費用共に無料です。 |
融資用銀行 |
地元の地銀・信金 創業時に金融機関から融資を受けたいなら地銀や信金を利用すべきでしょう。メガバンクから融資を受けるのはほぼ不可能ですが、地銀や信金なら担当者次第で対応してくれます。地銀や信金からの融資が難しければ、日本政策金融公庫の融資を検討すると良いでしょう。 |